研究概要 |
タウは,神経系に限局する主な微小管関連蛋白(MAPs)の一つであり,特に軸索に局在する。タウには微小管結合能及び微小管の安定化作用があり,試験管内再構成により,軸索中の微小管間の架橋の主成分であることが知られている。タウをSf9昆虫細胞に強制発現させると,軸索様の長い突起を伸ばすこと,逆にアンチセンスDNAによって,培養神経細胞の軸索伸長が抑制されることからタウは軸索の伸長と安定化に重要な役割を果たすと考えられてきた。我々はタウの生体内での役割を調べるため,標的組換え法によってタウ遺伝子欠失マウスを作製しその解析を行った。その結果驚くべきことにタウ欠失マウスは野生型と同様に発生,成長し,顕著な神経学的異常は認められなかった。更に組織学的にも全身にわたって異常が認められなかった。蛋白定量により,タウは確かに欠失していること,MAPsの一つであるMAP1Aの量がやや増加していることが判明した。しかし小脳の免疫染色では,特にタウ以外の蛋白の分布に変化は認められなかった。更に小脳を電子顕微鏡と急速凍結デイープエッチ法を用いて調べたところ,面白いことに顆粒細胞の軸索である平行線維中の微小管の本数の減少及び微小管間の架橋の数の減少が認められた。この微小管数の変化は樹状突起や太い軸索(視神経,坐骨神経)においては認められなかった。又,タウ欠失マウスの海馬の神経細胞の軸索形成過程もコントロールと顕著な差は認められなかった。我々は最後に軸索中の微小管の安定性を調べたがここでも差は認められなかった。以上のことから,タウは軸索の形成過程に必須でないこと,又,軸索中の微小管の安定化作用については細い軸索(小脳の平行線維)においては必要だが,太い軸索(視神経,坐骨神経)においては必須ではないこと,が示唆された。タウの作用が他のMAPsによって代償されている可能性もあるため,我々は,現在他のMAPsが欠失したマウスを作製しているところである。
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