研究概要 |
我々はレチノイン酸(RA)が神経系形成における関与を明らかにする目的で,RAによるP19細胞の神経系細胞分化誘導の過程に特異的に発現するレチノイン酸応答遺伝子の分離を試みた.レチノイン酸48時間処理により,神経細胞分化の転写調節に必要とされるMASH,NSCL,MEBなどのB-HLHおよびツメガエルの神経系形成過程の発現した。組織非特異的B-HLH遺伝子であるMEBはRA処理、未処理でも発現していたが、マウス初期神経系に発現するMASHは1nHレチノイン酸、6時間以内に発現が見られ、NSCLは0.1uMレチノイン酸、48時間で発現が観察され、神経細胞分化を誘導するレチノイン酸の濃度、処理時間と対応していた。Goosecoidなどのホメオボックス遺伝子群、また、TrkB、Cなどのニューロトロフィクファクター受容体遺伝子がレチノイン酸により発現が誘導された。しかし,この段階では成熟神経細胞のマーカーであるニューロフィラメント、MAP-2は発現しておらず、むしろ神経前駆体細胞(神経上皮細胞)のマーカーであるネスチンが発現していた。このレチノイン酸処理した細胞をFGF(10ng/ml)処理や細胞間接触を促進させると48時間以内に成熟神経細胞へと分化し、ニューロフィラメント、MAP-2,A2B5、HNK-1などの神経細胞マーカーが発現した(図2)。このことから、レチノイン酸処理48時間だけでは完全な神経細胞には分化していないものの、神経前駆体細胞へと分化しており、液性因子や細胞間接触による情報により神経細胞へと分化することが明かとなった。すなわち、レチノイン酸処理48時間経過の段階で、神経誘導因子、およびその受容体、さらに、発生過程での神経系形成に関与する多くの遺伝子が発現している可能性が示唆された。
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