研究概要 |
金属イオンは通常の社会生活に常に存在し、生存には必須のものである。しかしまた、金属イオンの酸化、還元反応により発生するラジカルは、遺伝的悪影響を生体に及ぼすことが予想される。金属イオンは、生命の基本作用に必須であるために、個々の金属イオンの発癌性や突然変異誘発性を正しく評価することは、非常に因難である。本研究では、金属イオンにより生じる、フリーラジカルとりわけ酸素ラジカルの役割に注目し、Fe^<2+>イオンがプラスミドpZ189上の大腸菌supF遺伝子DNAのどの部位にどのような特長を持つ突然変異を誘発するか、を明らかにすることを目的とした。125μMの塩化第一鉄(FeCl_2)をEDTA存在下に二本鎖DNAプラスミドpZ189と反応させ、宿主大腸菌に感染し、supFの突然変異体を得た。この場合、突然変異頻度は約10倍上昇し、鉄イオンには、変異誘発作用のあることが確認できた。変異体の塩基配列を調べたところ、G:C_->C:GおよびG:C_->T:Aのtransversionが優先して生じていた。また、133,156,159,160,172番目の塩基対に変異が多発しているのも特徴である。これらの結果、過酸化水素による変異の結果と良く一致している。過酸化水素は、環境中の微量の鉄イオンと反応し、水酸ラジカル(OH・)を作る。OH・はグアニンを修飾し、8_-ヒドロキシグアニンを作る。DNA上の8_-ヒドロキシグアニンは、DNA複製時には、アデニンまたはシトシンと対合することができる。その結果、G:C_->T:Aのtransversion優先して作られる。一方、8_-ヒドロキシグアニンはグアニンとは対合しない。したがって、G:C_->C:Gの原因とはなりえない。Fe^<2+>処理の場合、環境中に微量に存在する過酸化水素との反応でOH・が作られる。過酸化水素の場合と同様に、できた8_-ヒドロキシグアニンが、G:C_->T:Atransversionの原因となる。G:C_->C:Gのtransversionは、しかしながら、8_-ヒドロキシグアニンとは別の損傷が原因である。その損傷の同定が、今後の重要な課題である。
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