研究概要 |
長期毒性を評価するための細胞としては,薬物代謝で重要な役割を果たしている肝臓の正常細胞(ラットから採取)を用いた.モデル環境水汚染物質としては,四塩化炭素を用いた. まず,少なくとも4週間の培養が可能な培養系の確立を試みた.細胞層を上下からコラーゲンゲルで鋏み込み,その外側から培養液を供給する膜上サンドイッチコラーゲンゲル培養について検討を行った.この基本構造は,生体内での肝細胞が置かれている環境と酷似している.肝細胞の重要な特異機能であるアルブミン合成能が,約8週間にもわたり高レベルで維持されることが判明したため,細胞レベルで亜急性毒性の試験期間に相当する長期における添加毒物への細胞応答の実験が行える可能性が示された. 次に,長期の細胞応答を測定するために望ましい指標の選択を行った.その結果,細胞量を示すDNA量や従来広く用いられてきた細胞内酵素の漏出(GOT release)など比較して,長期細胞応答を測定する上では,アルブミン分泌能という指標が鋭敏であることが判明した.これは肝臓細胞のみがもつ高度な臓器特異機能のひとつである点からも,生体影響を評価するためには望ましいと考えられる. さらに,長期反復投与における細胞応答を測定した.四塩化炭素は開放培養系では容易に蒸発して培地中から失われるために,培養器をシリコンゴム製のシールを用いて密閉し,蒸発を抑制した.急性と異なり長期においては,時間という要因をどのように考慮するのが望ましいのかが重要な課題となる.さまざまな初期濃度の四塩化炭素をさまざまな添加間隔で長期にわたり細胞に添加,アルブミン分泌能が失われていく過程を追跡した.その結果,当初予定した定式化には至らなかったが,蒸発分を差し引いた培地中残存濃度を添加時間で積分した値(有効添加量)で,消失過程がごくおおまかに決定されているという結論を得た.
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