研究概要 |
多くの疫学調査や実験研究はアスベスト粉塵吸入によって肺癌、悪性中皮腫や肺線維症になることを示している。然し、その発生機序は殆ど不明である。肺に吸入されたアスベストが肺胞マクロファージ(Mφ)と反応して細胞・組織障害性の強い一酸化窒素(NO)を産生し、上記疾患を起こす可能性がある。そこでクリソタイル(CH),アモサイト(AM),クロシドライト(CR)の3種のアスベストと培養したラット肺胞Mφが放出するNOを測定した。CHと培養したMφのみがNO産生を著明に増加させた。NO産生酵素(NOS)の誘導剤である細菌性内毒素(LPS)とCH,AH又はCRの共存下の培養では、CHの共存によってLPSのMφ放出NO増加作用は強く抑制された。一方、LPSでNOS誘導したMφをLPS不含-CH含有新鮮培養液で培養しても、誘導されたNOSによるNO産生増加は抑制されなかった。これら所見はLPSとCHは互に異る機序でNOSを誘導してNO産生することを強く示唆する。更に、生理食塩水、またはアスベストを含む同液をラット気管内に注入したとき、CHを注入したラット肺のみがNOS活性の著明な増加を示した。その肺は強い浮腫と褐色斑形成を伴う炎症を示し、肺重量も他の処理ラット群のものに比べ約2培に増加した。以上の実験結果から、アスベスト暴露をうけた肺、とくにCH暴露された肺では肺胞MφがNOSを誘導して多量のNOを産生すること、およびこのNOが呼吸器病変の発生に関与することを強く示唆する結果をえた。今後、CHがLPSと異る機構でNOSを誘導してNO産生増加を導く過程とNOによる発癌の過程を分子生物学的研究で明らかにしたい。
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