研究概要 |
フロンガスによるオゾン層の破壊が進むと従来オゾン層により遮断されていた300nm以下の、より生物効果の大きい短波長の紫外線(UV)まで地球に到達するようになり、UVB領域(280-320nm)の紫外線の人体に及ぼす影響と、その防御について研究することは、急務である。本研究は太陽光紫外線がヒト遺伝子レベルでどのような変化を及ぼすかを解明することを目的としてヒト皮膚に類似する無毛マウス背部に太陽光近似の紫外線を照射し、その紫外線の照射量に依存してp53遺伝子にどのような変化がおこっているかをみた。一方、紫外線によって、露光部に皮膚腫瘍が生じる疾患である色素性乾皮症(XP)患者に生じた露光部皮膚腫瘍におけるp53遺伝子の変化についても調べ、実際のヒトにおいて太陽光によってp53遺伝子にどのような変化がおこっているかを解析し、マウスの結果と比較しすることをめざした。紫外線は点突然変異をおこしやすいとされており、これまでの私達の研究から、紫外線がras遺伝子に突然変異をおこさせることにより20%くらいの頻度でras遺伝子が活性化されることが明らかになった。p53遺伝子では、点突然変異をおこすことにより正常の機能の制御からはずれる例が知られているので、p53遺伝子に着目し、露光部と非露光部皮膚及び肝臓でこれら遺伝子の変化がないか、またどのくらいの照射量によりどのような変化があらわれるかについて解析した。無毛マウスに健康蛍光ランプを週2-3回、20週照射したマウス皮膚の露出部皮膚に生じた腫瘍からDNAを抽出し、PCR法で増幅したp53遺伝子部を一本鎖DNA高次構造多型解析法(SSCP法)によりp53遺伝子のエクソン6、7、8の突然変異の有無をスクリーニングしたところ3/16に正常とは異なる永動度を示すものが検出された。一方XPの患者皮膚腫瘍では16/37にSSCPの異常が見つかった。それらについて、塩基配列を決定したところCC→TT(4つ),C→T(2つ)の変異が多く見られ、大腸菌などにUVCを照射して得られた研究結果で示されているように、ピリミジンの並んだところに変異がおこりやすい傾向がみられた。しかし、一塩基挿入、G→C,G→TなどのトランスバージョンもみられUVBとUVCとで損傷の種類、生じる突然変異のタイプが異なる可能性もしめされ太陽光近似のUVBをもちいることの重要性が示唆された。今後マウスにおいてSSCPの異常がみられたものについても塩基配列を決定して実験的なサンランプ照射が実際の太陽光照射のモデルとしてどの程度有用かを検討したい。
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