研究課題/領域番号 |
05278240
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研究種目 |
重点領域研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
田辺 信介 愛媛大学, 農学部, 助教授 (60116952)
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研究期間 (年度) |
1993
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研究課題ステータス |
完了 (1993年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
1993年度: 1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
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キーワード | 有害物質 / 有機塩素化合物 / 熱帯アジア / 開発途上国 / 環境影響 / 地球汚染 |
研究概要 |
本研究により得られた成果は以下のようにまとめられる。 1)アジア・オセアニアの熱帯・亜熱帯沿岸域では、有機塩素系殺虫剤HCHとDDTによる大気および水汚染が顕在化していた。意外なことに、先進工業国型の化学物質として注目を集めてきたPCBやクロルデン(CHL)も熱帯・亜熱帯地域で相当の汚染が認められた。 2)熱帯・亜熱帯地域の堆積物および魚介類も、有機塩素化合物による汚染が認められたが、残留濃度の南北差は、大気や水汚染ほど顕著ではなかった。熱帯・亜熱帯地域における水圏生物および堆積物の汚染は、温帯地域に比べ進行しにくいことが示唆された。 3)数値モデルを用いて、大気-水間および水-堆積物間における有機塩素化合物のフラックス(移動量)を計算したところ、水から大気への活発な移行が熱帯・亜熱帯地域で認められた。しかし、水-堆積物間のフラックスは小さかった。このことより高温の熱帯では、水環境に残留する有害物質の大半が大気に揮散し、堆積物として残存する量はきわめて少ないことが判明した。つまり熱帯地域では、水圏環境における有害物質の滞留時間が短いため、生物濃縮も進行しないものと推察され、魚介類の汚染レベルが低いことはこのことを反映しているものと考えられた。 4)南インドで行なった調査では、水田に散布した農薬HCHの90%以上が2週間で大気に揮散した。また、この地域の河川集水域でHCHの物質収支を計算したところ、散布した薬剤の99%は大気へ移行し、沿岸域へ流入した量は1%以下にすぎなかった。また、水圏に流入した量のほとんどは、さらに水面から大気に揮散していた。大気に移行した汚染物質は、気流により短時間で世界中に広がる。つまり熱帯地域における化学汚染の影響は比較的短命であるが、そこでの無秩序な利用は、地球規模の汚染に大きな負荷をもたらすことが示唆された。 5)熱帯起源の有機塩素化合物が地球規模で広がる態様を理解するため、小笠原諸島(父島)で周年にわたり大気汚染の調査を実施したところ、南西〜南方向の風(熱帯アジアからの風)が観察された月に、相対的に高い濃度のDDTやHCHが検出された。このことは、熱帯アジアにおける化学物質使用の影響が大気の長距離輸送により地球規模で広がっていることを示している。 6)以上の研究により、高温・多雨といった熱帯固有な自然条件は、そこでの化学汚染を軽減する効果はあるが、地球規模の汚染に大きな負荷をもたらしており、その環境インパクトはグローバルな視点で考える必要があると結論された。
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