研究概要 |
地域の環境に応じて降水・エアロゾルなどの降下物の量と質が,種類や形態の異なる森林にどのような影響を与えるか,また森林からどのような水質・水量が流失するかを明らかにする目的で,昨年度の北海道,岐阜,近畿,山陰,中国地区に本年度は中国江西省南部とタイ国北部の照葉樹林森林集水域を加えて広域的研究を行った。また,森林の種類や土壌の違いが土壌水から渓流水に至る過程での水質形成におよぼす機構についての室内実験をあわせ行った。 1.渓流水水質の広域的調査を通じて暖かさの指数に対応して調査地域を冷涼,暖温,熱帯の3地域に類別することが可能で,それぞれ特徴的な水質を示すことがわかった。Ca^<2+>,Mg^<2+>,NO_3^-,SO_4^<2->など渓流水の水質を特徴づけるイオン濃度は,冷涼地域と熱帯地域で低く,暖温地域で高くなる傾向を示した。冷涼地域では低温のため植物遺体の分解と岩石風化の進行が遅く,熱帯地域では分解は速く,生成物はただちに植物に吸収されて,土壌への浸透が少なく,風化は極端に進行しきっているためであると考えられる。 2.島根県では,冬季降雪によるNa^+,C1^-,NO_3^-,SO_4^<2->の増加がみられたが,渓流水にまで影響することはなかった。また,隣接する集水域の渓流水質について調査した結果,成長の盛んな若齡林分では,成熟林分の渓流水より,養分物質濃度が低いことわかった。 3.山口県徳山地区で大気降下物採取器により,降下物をエアロゾルによるものと降水にともなうものに分別して測定した結果,NO_3^-,SO_4^<2->など酸性雨の主成分は,乾性形態をとっていることが確認された。 4.中国地方の数種類の森林土壌を用いて,重水,重窒素による土壌水の浸透速度を比較した。土壌母材と土壌構造により浸透速度は大きく変動した。 5.土壌水,渓流水についての窒素自然同位対比測定の結果,多雨期の脱窒が渓流水の窒素濃度に大きい影響を及ぼしていることが判明した。
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