研究概要 |
本年度は,特にReとOsの錯体について,本研究をまとめる上で鍵となる幾つか新複核錯体を合成し,第二,第三遷移金属クラスター錯体の構造と性質について,全体像がほぼ把握できた.これには本年度Re,Os両錯体でM_2(μ-O)_2型錯体の構造および酸化還元反応性の情報が得られた点が大きい.(1)Re錯体,一連の[Re_2(μ-O)_2(L)_2]^<n+>型錯体(L=bis(2-pyridylmethyl)(2-(4-methyl)-pyridyl)amine),bis(2-(4-methyl)pyridylmethyl)(2-pyridyl)amine;n=3,4)を合成し,(III,IV)および(IV,IV)の酸化状態のもの各1種について結晶構造解析を行った.(III,IV)のものの構造解析はこれが初めてである.Re-Re間距離は(IV,IV)型が2.37A程度(III,IV)型が2.426Aで,前者が金属間3重結合,後者が2.5重結合であることを反映したものと解釈できる.これらの錯体は,アセトニトリル溶液中で(III,III)/(III,IV)/(IV,IV)の間に可逆な2つの1電子酸化還元過程を示すが,酸の添加の影響はなく,オキソ架橋へのプロトン付加は起こらないようである.(2)Os錯体.M_2(μ-O)_2型の他,一連の(μ-O)(μ-RCOO)型の合成にも成功した.[Os_2(μ-O)_2(tris(2-pyridylmethyl)amine))_2]^<3+>の結晶構造解析を行ったが,Os-Os距離は,2.518Aで,1.5重結合を考えると妥当な距離である.酸化還元挙動では,(μ-O)(μ-RCOO)型がプロトン共役の傾向を示すのに対し,Os_2(μ-O)_2型錯体はプロトンが関与した挙動を示さなかった.(3)まとめ.一連のM_2(μ-O)_2型錯体の金属間距離は,Mo_2(V,V)(1)>Os_2(III,IV)(1.5)>Re_2(III,IV)(2.5)>Re_2(IV,IV)(3)(括弧内は結合次数)となり,結合次数との間の密接な関連を示している.また,この型の錯体の酸化還元電位は,Re<Os<Ruの順となった.本研究で対象としたOs錯体の混合原子価状態は,架橋構造の違いによらず10^<20>程度の大きなcomproportionation constantを示し,他の元素の錯体と際だった違いを示している.
|