研究概要 |
本研究においては,日本海堆積物コア試料を用いて,1)その炭酸塩炭素量,有機炭素量,生物源オパール量を定量し,砕屑物含有量を推定した,2)その元素組成,鉱物組成を定量し,その結果を統計解析(因子分析および重回帰分析)する事により,砕屑物を更に4つの構成要素に細分し,各構成要素の元素・鉱物組成および各試料についての各構成要素含有量を推定した,3)更に,各構成要素の元素・鉱物組成を既存の黄砂,レス,日本列島起源の砕屑物の組成と比較することにより,各構成要素の起源を推定し,砕屑物中の黄砂起源砕屑物の含有量を推定した,4)珪藻群集組成および含有量,広域火山灰などに基づき,各地点における詳細な年代モデルを構築し,各試料の乾燥傘比重を推定して,各試料の傘堆積速度を求めた,5)これらの結果に基づき,過去80万年間については約5000年,過去20万年間については約700年の時間解像度で,日本海への黄砂堆積速度を復元した.その結果,a)日本海中央部での黄砂堆積速度は過去80万年間,概ね1〜2g/cm2/kyの間で変動し,氷期に高く間氷期に傾向が認められる事,b)但し,そうした傾向は,海水の酸素同位体組成から推定される著しい氷期,間氷期に限られる事,c)過去20万年について詳しく見ると,黄砂寄与率の変動パターンがDansgaard-Oeschger Cycleと呼ばれる数百年〜数千年スケールのグローバルな気候変動と対応している事,d)黄砂寄与率の低下期は,珪藻化石から推定される東シナ海沿岸水の日本海への流入が顕著になった時期と良く一致する事などが示された。東シナ海沿岸水の影響増大は,黄河・揚子江の河川流出量の増大とアジア大陸内陸部の湿潤化を暗示する。一方,黄砂寄与率の減少も後背値の湿潤化を示唆する。従って,黄砂寄与率の変動に現れたD-O Cycleは,数百年〜数千年周期でのアジア大陸内部での乾燥化-湿潤化の繰返しを意味すると考えられる。
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