研究概要 |
変調構造中の波動現象は固体物理のみならず物理学全般において興味を持たれている普遍的な現象である。最近,特に固体物理の複数分野でこの現象に現代的な興味が持たれ,活発に研究が行なわれている。その契機は不規則系での波動の局在現象と準結晶の発見にある。本研究の目的は,「変調構造中の波動現象」を明らかにすることである。 本研究では,2次元準周期格子であるペンローズ格子中を伝播する第3音波の透過スペクトルを測定した。実験結果は理論的予測に反し,透過スペクトルは入射方向に対して非常に敏感であり,豊かな構造を持つことが分かった。このことは実験に用いた系の有限性に起因し,先の理論的予測と矛盾するものではない。 エワルドの作図をペンローズ格子の場合について行なってみると同一のエワルド円(3次元のエワルド球に相当)に複数のデルタ関数が乗っている時に透過系数が顕著に減少していることが分かる。このことは多重回折がこの系では重要であることを意味しており,さらにペンローズ格子の幾何学的な性質が多重回折を高い頻度で出現させることも簡単な考察から理解できる。 本研究を通じて,ペンローズ格子中を伝播する波動(第3音波)の透過スペクトルの伝播方位依存性をはじめて実験的に測定することに成功し,そこに現れる構造が多重回折に依ることを明らかにすることができた。今後ペンローズ格子以外の2次元格子に実験を拡張することが期待される。例えば,2次元不規則格子中での第3音波の局在の研究などが重要である。
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