研究概要 |
高温変成岩の変成温度は,その岩石の最低溶融温度を優に越していることが多いが,それが実際に融けていたのかどうかを判断するための明確な指標を我々はまだ持っていない.そこでこの研究では,阿武隈山地や日高山地などに分布する天然の高度変成岩とマグマ起源の火成岩を詳細に比較検討し,それらに共通する記載岩石学的事実を抽出することと,それを融解実験で再現することによって,高度変成岩の部分融解の判定基準を確立することを目的とした.3年間の野外と室内における研究の結果,泥質組成の高度変成岩中に部分融解の指標となりえそうな次の点が明らかになった. 1 地殻中では普遍的な斜長石とザクロ石の組織と主要成分組成における新しい手掛かり:ザクロ石斑状変晶中に火成岩中に出現するような自形のでカルシックな斜長石が普通に産出する.この斜長石包有物の灰長石成分含有量はホストのザクロ石のグロッシュラー成分含有量とともに系統的に変化する.これは交代作用を考えないかぎり,サブソリダスの反応では説明しがたく,部分融解が起こったことを強く示唆している. 2 燐や希土類元素についての珪酸塩鉱物の多様な累帯構造に関する新知見:特にザクロ石斑状変晶が燐に乏しい内部と燐に富んだ外縁部とに区分されることがある.このとき,内部は自形で灰長石成分に富む斜長石を特徴的に含んでいるが,外縁部はリン酸塩鉱物やソディックな斜長石など,マトリックス中のものと同様の鉱物を含んでいる.これは,部分融解反応がリン酸塩鉱物をも巻き込んだ非調和的な連続反応であることと,リン酸塩鉱物などの副成分鉱物の挙動とそれに支配された微量成分の分布が重要な指標になりえることを示唆している. 3 ミグマタイト的な泥質岩中の部位によるジルコンの形態・構造・組成の多様性:イオンマイクロプローブを用いた同位体年代測定に供されるジルコンの形態・構造・組成が部分融解の手掛かりになることを示唆している. 現在,上述したような天然の岩石に認められた手掛かりを,ガス圧式の高温・高圧実験装置を用いて再現する実験を行なっており,ほぼ成功しつつある.これらの成果は印刷論文として,あるいは学会における口頭発表として公表してきたが,さらに全体を取り纒めて論文化するつもりである.
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