研究概要 |
本研究は,従来にない短波長域(紫外)で動作する次世代光デバイスの開発に向けた,新しいII-VI族混晶半導体の結晶成長技術の確立を目指したものである.以下に,本研究で得られた結果を示す. 1.まず,ガスソース(GS)分子線エピタキシ-(MBE)法により,GaP基板上にZnCdSSe系混晶の成長を行い,次いで,ZnCdSSe-ZnSSeダブルヘテロ(DH)構造を作製した.DH構造のフォトルミネッセンス測定ではZnCdSSe活性層からの約3.2eVの強い発光が観察され,理論計算から予想したようにタイプI型のバンド構造をもち,キャリアが活性層中に閉じ込められていることが示唆された. 2.GSMBEでは,十分な成長速度を得ることができなかったため,硫黄分子を原料としたMBE法を試みた.特に,硫黄分子の非常に高い蒸気圧に対応するため,独自のセルを設計し,それにより成長速度の増加を達成した. 3.MBEによりGaP(100)just基板上に直接ZnSを成長した場合,成長層は三次元的でしかも多数の双晶を含んでいることが,反射高エネルギー電子線回折観察の結果明らかになった.成長条件などを検討したところ,三次元成長は傾斜GaP基板により,双晶の形成は高温成長ZnS緩衝層により抑制されることを見いだした. 4.塩素(Cl)および窒素を用いたZnS(Se)のn,p型伝導型制御を試みた.n型は2X10^<18>cm^<-3>のキャリア密度が達成されたが,p型伝導は,本研究の範囲内では制御することができなかった. 5.以上の結果を踏まえ,GaP傾斜板上にZnS緩衝層を介して,Au/ZnSSe/ZnCdSSe/ZnSSe:Clの金属-絶縁体-(n型)半導体(MIS)構造を作製した.従来のMIS構造との大きな違いは,ZnCdSSe量子井戸層をI層とS層間にもつことで,これによりキャリアが効率よく閉じ込められ,発光高率が増加することが期待される.77Kにおいて電流注入発光を試み,発光波長400nmと紫外域での発光を,世界に先駆けて観測した. 以上のように,本研究の成果は,GaP基板上のZnCdSSe系混晶半導体が紫外光デバイス用材料として高いポテンシャルを持つことを明らかにした点で重要であり,今後さらに詳細な結晶性制御,物性制御を行うことによって,この光領域でのデバイスの実現に大きく寄与しうる見通しを得た.
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