研究概要 |
高温・高水素圧下で起こる水素化過程を追跡するための実験は高エネルギー研・放射光施設でのX線回折を主体に進められた.その最初の成果がNi,Pdを高温に長時間保持した際の格子収縮の発見であって,これは水素化物相で多量の金属原子空孔が生成することによると推論された.そしてPdについて行った詳細な実験から,回収試料中の原子空孔濃度が約18at.%に達し,金属原子空孔はL1_2型の秩序構造Pd_3Vac_α(α≦1)をとることが確認された.またNiにおいては,高温・高水素圧処理後に回収した試料を常圧下で再度熱処理することにより無数のボイドを含むスポンジ状の組織を生ずることが見出され,空孔の凝集・消滅の結果であると理解された.こうして高温では水素化物中に多量の金属原子空孔が導入されることが確立されたのである. この多量の金属原子空孔生成(superabundant vacancy formation)は,金属原子の拡散を促進し,高水素圧下で従来とは異なる相,とくに超化学量論組成の水素化物を生ずる目覚ましい効果をもたらすことが見出された.なかでも重要なのは,これらの実験から導かれた「金属-水素系においては金属原子空孔を多量に含む相(defect 相)のほうが空孔を含まない格子間固溶相(defect-free 相)よりも熱力学的に安定である」という推論であって,これは今後の真剣な検討を必要としている. 総じて本研究課題の所期の目標はほぼ達成されたと言ってよい.
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