研究概要 |
分子系や単一分子の動的挙動は、それらのもつ電子エネルギーの原子核配置に関する関数、すなわちポテンシャルエネルギー曲面によって決まる。本研究では基底状態、励起状態の反応ポテンシャル面を高精度に算出する新しい分子理論、Multireference Moller-Plesset(MRMP)法を開発した。化学的に重要な多配置関数から出発する摂動法である。MRMP法の特徴は簡潔な描象とともに計算の容易さにある。このため、いままで定量的に扱うことができなかった大きな系にも適用可能できる。また、MRMP法には動的な電子相関とともに静的な電子相関を十分に取り込まれる。したがって静的な電子相関が重要な役割を演じる分子の解離過程や分子の励起状態、d-,f-電子が関与する金属錯体などにもMRMP法は威力を発揮するものと期待される。MRMP法を化学反応ポテンシャル曲面の計算、励起状態の記述、金属錯体の定量的計算などの問題に応用し、新しい定量的分子理論として有用であることを数値計算によって実証した。たとえば励起エネルギーの計算としては、共役系のベンゼン、シクロペンタジエン、ピロール、フラン、ナフタレンや基底状態がHartree-Fock近似で記述できないオゾン分子をとりあげた。いづれも実験値である励起スペクトルを0.2eV以内の誤差で再現することがわかり、スペクトルの同定に有効であることがわかった。また錯体への応用例としては、最安定構造が議論の対象となっているCrF6,MoF6,WF6をとりあげ、いづれもD3h構造がD3d構造より安定であるとの結論を得た。これはこれまでのきわめて精度の高い計算結果を支持するものである。新しく開発されたMRMP法は簡潔な概念で複雑な現象に高精度で切り込める理論である。計算の機動性が理論の進歩にもたらす効果は大きいものと思われる。
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