研究概要 |
新たな分子変換を可能とする触媒を設計する上から、金属酵素にみられる金属イオン間あるいは極性官能基との相互作用の解明は重要である。この様な観点より次の3種の反応の解明をモデル錯体を用いて行った。(1)酵素分子を活性化し,一酸素添加反応を行う上で重要である分子状酸素のO-O結合のヘテロリシスを人工的に再現するため,チトクロームP450活性中心の精密モデル錯体の合成を行った。'twin-coronet'ポルフィリンが面の上下に2つのポケットを有することを利用し,その内にチオレート配位子と酸素分子を安定化する水酸素をもつモデル錯体の合成を達成した。(2)酸素発生機能をもつマンガン含有酵素(マンガンカタラーゼ,酵素発生錯体)の反応の機能モデルによる解明を行った。この両者の反応を再現しうる機能モデル錯体として各種の金属間隔を有するポルフィリンニ量体を合成し、その距離と活性の相関を検討した結果4.OAの距離にあるとき最大の活性が得られた。速度論的解析等により,過酸化水素分子のO-O結合がホモリスシスし,マンガン(iv)二核錯体の生成が律速段階であると結論づけられた。また、この反応に重要な因子である窒素塩基の示す2種類の役割(一般塩基触媒および金属への軸配位子)をこの触媒の特性を生かして定量的な分離評価に成功した。(3)このボルフィリン二量体を触媒として含水アセトニトリル中での陽極酸化により酸素発生が観測された。各種電気化学的手法や反応論的研究によりこの酸素発生はマンガン錯体触媒により水の4電子酸化反応であることが明らかとされた。この反応は構造が明確なマンガン複核錯体触媒を用いた触媒的な水の4電子酸化に成功した世界で最初の例である。
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