研究概要 |
1.金属酵素として,脱窒素細菌(Achromobacter cycloclastes IAM 1013)からブルー銅蛋白質シュードアズリン(以下pAz)を単離し,還元剤により還元型pAz^1にして精製した.紫外可視吸収や電子常磁性共鳴法により,純度を確認した. 2.電子移動反応の相手となりうる遷移金属錯体を各種合成して,予備的に酸化還元の実験を行った.その結果,[Co(phen)_3]^<3+>(phen:1,10-フェナントロリン)を酸化剤として用いることとした. 3.水溶液内での金属酵素と遷移金属錯体の電子移動反応による紫外可視吸収変化をストップトフローラピッドスキャン分光測定装置により調べた.生成する酸化型pAz^<II>の吸収極大594nmでの吸光度増大を測定し,反応速度を求めた.典型的な金属錯体過剰の擬一次条件(25℃,pH7.0,I=0.3M,リン酸緩衝溶液)で,半反応時間は0.2-0.8s,二次速度定数はk_<ox>=6.2x10^2M^<-1>s^<-1>であった.緩衝電解質の陽イオンをカリウムからナトリウムに替えると速度定数も変化した. 4.溶液に49MPaまで加圧し,速度の圧力依存性を調べた.速度定数は加圧により減少した.活性化体積は大きい正の値(約+40cm^3で),活性錯合体は原系と比べて大きい体積をもつことが推定された. 5.pAzは中性水溶液内で正の表面電荷をもつ.金属酵素と金属錯体の陽イオンどうしの活性錯合体が形成されるとき,陰イオンが相互作用してその形成を助けることが必要であることがわかった.そのための脱溶媒和が正の活性化体積として観測されると考えられる. 6.対照となる鉄を含む金属酵素チトクロームcの[Co(phen)_3]^<3+>による酸化と[Fe(CN)_6]^<4->による還元についても同様の測定を行い,それぞれほぼOおよび負の値をもつ活性化体積を得た.これらの知見はいずれも,金属酵素の反応において,接触部位近傍の表面電荷や周辺のイオン雰囲気の影響が重要であることを示している.
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