研究概要 |
本研究は粘土層間に光学活性な多核金属錯体をインターカレーションして不斉合成のための反応場を構築することをめざしたものである。最終年度において得られた成果をまとめると以下の様になる。 (1)不斉合成場として以下の系を提案した。まず粘土層間に光学活性なトリス(フェナントロリン)ニッケル(II)錯体を吸着させる。次に光学不活性ではあるが酸化作用のあるタ-ピリジル鉄(III)錯体を吸着させる。このような系に,光学活性な還元性試薬であるアルコルビン酸あるいはシスティンを加え上記鉄(III)錯体と反応させ,D体とL体との反応速度を比較して立体選択性の有無を検討する。 (2)上記の系において,ニッケル(II)錯体が鉄(III)錯体に対して不斉な環境を与えているかどうかを誘起CDの方法を用いて調べた。すなわち,ニッケル錯体と鉄錯体の共存下において,本来光学不活性な鉄錯体の吸収スペクトルに共存する光学活性なニッケル錯体のために円二色性活性が現われることを検討した。もし鉄錯体に円二色性活性が現われるのであれば,粘土面上で鉄錯体はニッケル錯体の不斉な環境の範囲内に存在することになる。実験の結果,鉄錯体の可視部吸収スペクトルにおいてニッケル錯体の共存した場合に錯体の絶対配置に応じた円二色性スペクトルが観測された。得られたスペクトルの大きさをKirkwood・Tinocoの式によって理論的に解析し,両錯体の立体的な配置が決定された。 (3)上記コロイド系に対して電気2色性の測定を行うことによって,鉄錯体とニッケル錯体の粘土面上における配向を決定した。さらに鉄錯体がニッケル錯体との相互作用によって配向を変えることも明らかにされた。 (4)上記コロイド系においてアルコルビン酸の酸化反応を行ったところ,D体L体との間の速度の違いは見出されなかった。一方,システィンの酸化ではD体とL体で差が見出され不斉識別が行われていることが解った。
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