研究概要 |
(1)ニトロプルシドナトリウム単結晶の光誘起準安定状態の熱による消滅過程:c-軸に垂直な単結晶板に青色レーザー光を照射してできる準安定状態は特異な光学的性質をもつこの光学的性質は施光性の発生が関与している.分子の観点では準安定状態において2種類の励起分子種,MS1およびMS2,が分布することが知られているが,本研究では,光学的性質に関する測定と赤外吸収の測定を温度を変えて行い,特異な光学的性質がMS1によるもであることを明らかにした.また,熱による消滅速度の温度依存性より,活性化エネルギーと頻度因子を得た.(2)ニトロシルルテニウム錯体の光誘起準安定状態:エチレンジアミンを配位子としてもつ6種類のニトロシルルテニウム錯体において,新たに光誘起準安定状態が生成することを見出した.熱による消滅挙動を赤外吸収スペクトルにより測定し,活性化エネルギーと頻度因子を求めた.これらの錯体では消滅が顕著になる温度が著しく高く,trans- [Ru (H_2O)(en)_2NO] Cl_3では約270Kである.(3)ニトロプルシド鉄(II)結晶の光誘起準安定状態:低温下で青色レーザー光を照射すると,ニトロプルシドイオンの準安定状態に特有なNO伸縮振動による吸収のほかに,低波数シフトしたCN伸縮振動,および近赤外領域の強い吸収帯が現れる.この変化は次のように解釈される.この結晶はよく知られたプルシアンブルーと同形の立方晶であるが,基底状態では鉄はすべて2価であるためにプルシアンプル-のような混合原子価状態とはならない.しかしニトロプルシドイオンが光誘起準安定状態となると-Fe^<3+>-CN-Fe^<2+>-なる部分構造が発生し混合原子価状態が現れる.つまり光誘起準安定状態と混合原子価状態が連動して生成する.(4)ニトロプルシドナトリウム結晶の光誘起準安定状態-可視吸収スペクトル:上記の"特異な光学的性質"を解明する目的で準安定状態の可視吸収スペクトルの測定を行なった.準安定状態では660nmにピークをもつ幅の広い吸収帯が現れ.この吸収帯を励起すると準安定状態は消滅する.さらに次のような奇妙な光学的性質が見出された.(010)面の結晶板に[001]偏光のレーザー光を照射した後,偏光白色光で観察する.このとき,[001]偏光では異常はないが,[100]偏光は強く散乱されすりガラス状態に見える.このことは準安定状態はドメイン構造をもっていることを示している.
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