研究概要 |
ビス(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(AOT)やヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩化物(CTAC)のような界面活性剤が有機溶媒に水を可溶化して形成する逆ミセルへの金属錯体の可溶化機構と逆ミセル内の水との相互作用を明らかにした。 1.金属錯体の逆ミセルへの可溶化と分解反応-可溶化されたビピリジル(bpy)-鉄(II)が界面で解離してbpyが有機相へ溶出し,さらにCTACの対陰イオンCl^-の求核攻撃により,クロロ錯体が生成し,その分解が促進される。一方,陰イオン性のAOTでは,Fe(II)のFe(III)への酸化を促進するPO^<3->_4は静電的反発により,Water poolの中央部に局在し,ミセル界面に位置する錯体を攻撃できないことが判明した。 2.AOT逆ミセル中の水の塩基性度の変化-逆ミセルの性質は主に水と界面活性剤の濃度比(R)に依存する。R>10ではテトラメチルサイクラムニッケル(II)錯イオン〔Ni(tmc)〕^<2+>のスペクトルはbulk水溶液とほゞ同じであったが,R<10ではRが小さくなると共に,bulk溶液中における水酸化物イオンOH^-が錯体に配位したスペクトルに漸近した。このことから,Rが小さくなる,すなわち内殻の水相のサイズが小さくなると共にニッケル錯体に配位した水がAOTのスルホ基との協同的相互作用によって水酸化物イオンに類似した形に分極していくと考えられる。 3.CTAC逆ミセル中の塩化物イオンの配位性-シクロヘキサン・クロロホルム混合溶媒におけるCTAC逆ミセルでは対陰イオンCl^-がほゞ100%〔Ni(tmc)〕^<2+>に配位した5配位錯体〔Ni(tmc)Cl〕^+が得られることを見い出した。この錯体は塩化物のbulk水溶液では溶解度とCl^-…H-OH…Na^+のような協同的相互作用によるCl^-の電子密度の低下のために生成しない。R<5ではCl^-の濃度と共に5配位錯体へと移行し,約20モル/lで100%5配位錯体となった。
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