研究概要 |
本研究は,これまでに報告されたイソカルバサイクリン合成法のいずれの方法も範としない,クライゼン-エン・ルートを基本とする全く新しい発想に基づく短行程収束型分子構築法を確立した。即ち,従来の合成は,プロスタグランディン環を合成後α-鎖を含む5員環を組み込んでビシクロ[3.3.0]骨格を構築する方法である。一方,本方法は,α-鎖を組み込んだ5員環を先に用意しておき,ω-鎖が置換する5員環を後から組み込んで同様の骨格を組み立てようとするものである。(4S)-4-(O-tert-butyldimethylsilyl)cyclopent-2-en-1-oneはプロスタグランディン合成で重要な出発原料であったが,その鏡像体はこれまでこの分野では使い道がなかった。しかし,本研究によって(4R)-体にイソカルバサイクリン合成の重要な原料としての新しい価値が賦与された。 ω-側鎖に相当するキラルシントンに関しては,市販の(S)-1,2-O-イソプロピリデングリセロールを原料として,トシル化,銅反応剤とのカップリングによるC_4-ユニットの増炭,末端ジオールのエポキシ基への変換,アセチリドによるエポキシ環の開環,立体選択的ヒドロジルコニル化,およびヨウ素-ジルコニウム交換,の一連の反応により大量合成の実験処方を確立した。実施したスケールの最大のものは,グリセロールを約20グラム使用した場合で,各段階全て80-95%収率で進行した。 本合成法の最大の特徴となる連続クライゼン-エン反応の基質合成に際して,3級水酸基のビニルエーテル化は克服すべき重要な課題であった。大量の水銀塩を用いる方法に頼らずにその目的を達成する新しい効率的な方法を開発した。
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