研究概要 |
淡水産種(Vaucheria terrestris 以下VTと略記する)と汽水産種V.dichotoma(同,VD)の2種の多核細胞性黄藻フシナシミドロを用いて,光屈性の制御と膨圧調節能の関連を比較解析した.VTは耐塩性が低く,50Wm^<-2>以上の白色光に対して負光屈性を示すが,VDは海水にも耐える高い耐塩性を有し,直射日光にも正光屈性を示す.両種共に,耐塩性は5mMCaの添加により大いに改善され,細胞先端の直径は外液に加えたNaClやSorbitolによって1/2まで減少した.VTではNaClとSorbitolは50mOsm以上で等しく負光屈性を起こすが,VDではSoribitolしか負光屈性を起こさない.このことは,細胞直径減少と光屈性の方向転換は独立していること,低い膨圧が負光屈性の発現と関係していることを示唆する. そこで,改良型イオンクロマトグラフを製作し,両種の細胞内イオン分析を行い,膨圧調節機能を比較解析した.5mMCa存在のもと,VTは青色光下ではNa^+とCl^-イオンを吸収して膨圧を保った.Na^+の吸収はK^+より多かった.VTはNa植物であるらしく,外液がSorbitolのときは,Na^+がないので膨圧を回復できない.白色光下(12時間明/12時間暗)でVTは顕著な膨圧調節能を示さない.一方,VDはK^+,Na^+,Cl^-,SO^<2->_4を活発に吸収して顕著な膨圧調節能を示す.K^+をやや多く吸収するのでK植物である.膨圧は300mOsm以上で低下するが,400mOsmでも存在する.以上の結果は上記仮説を支持する.すなわち,VDにおいて,Soribitolを用いたときだけ,Sorbitolでは膨圧が保てないため負光屈性が現れたが,VTは膨圧調節機能が低いので,SorbitolでもNaClでも膨圧を回復できず,ともに負光屈性が起こると考えると説明できる.膨圧低下がどのような過程を経て負光屈性を起こすか,また,細胞直径の減少がどのように膨圧減少に関連しているかは今後の研究に待たなければならない.
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