研究概要 |
ウナギの産卵・初期生態を解明することを目的として,本種の耳石微細構造の観察と微量成分の分析を行った。 (1)1991年夏,マリアナ諸島沖のウナギ産卵場(15°N,140°E)付近において,採集されたニホンウナギAnguilla japonicaのレプトケファルス76尾の耳石日周輪から各個体毎に孵化日を求めたところ,その分布は6月初旬と中旬にそれぞれ孵化のピークをもつ2山に分かれた。これは同海域で起こった親ウナギの産卵が連続的に起こっているのではなく,同期的・間欠的に行われていることを示唆している。(2)耳石中心部の孵化チェックの微細構造を天然シラスウナギと人工孵化仔魚で比較すると,平均直径は前者で大きく(約12μm),後者で小さかった(約9μm)。これは,天然では人工孵化の場合(約40時間)よりかなり長い胚期を持つことを示唆する。また一方でチェックの内側には,シラスでは1〜数本の胚期輪が観察された。(3)ICP法により耳石中の微量元素を測定したところ,Ca,Sr,Zn,Fe,Mg,Mn,Al等が検出された。この内Caが最も多く,重量パーセントで約40%,次いでSrが0.1〜0.3%程度であった。Srの値は魚種間で大きく異なり,フナ,ライギョ,オイカワなどの淡水魚では0.1%前後,ハタハタ,マアジ,ハダカイワシ等海水魚では0.2%前後,そしてウナギ,サクラマスなど通し回遊魚ではその中間的値となった。(4)シンクロトロン放射光を利用した螢光X線イメージングにより,ウナギの典型的回遊型を示すと考えられる利根川産下りウナギの耳石を分析したところ,耳石の中心部にのみ高濃度のSrが検出された。一方,男女群島の海域で採集されたウナギの耳石を同様に分析してみると,Srが高濃度に含まれる層は耳石中心部のみならずほぼ耳石全域に亘っており,これらの個体が淡水域へ遡上することなく孵化後海にとどまっていたことが示された。
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