研究概要 |
動物にはネコ免疫不全ウイルス(FIV),サル免疫不全ウイルスなど多くのレンチウイルス感染症が認められ,免疫不全症,脳炎,造血障害など様々な病態が認められる。これら動物レンチウイルス感染症の病理発生を解明するためには,ウイルスエンベロープとウイルスレセプターとの相互作用を検討することが重要である。そこで,FIVenv遺伝子の多様性と病原性との関連に重点を置いて研究を行なった。はじめに脳炎のため著名な強直性〓攣を示したFIV自然感染ネコの大脳,リンパ節,骨髄の各組織DNAからnestedPCR法によってFIVプロウイルスenv遺伝子(V3-V6領域)を増幅し,その塩基配列を決定した。各臓器から得られた合計15クローンを比較したところ,ほぼ均一なウイルスが得られ,この症例においては単一のpopulationのウイルスが各臓器に感染,増殖していることが示された。また,本例由来ウイルス(JN-BRI株)は,これまでの日本の分離株(TM2株)とは低い相同性しか示さず,系統解析においては神経病原性が示唆されているPetaluma株と近縁な関係にあることが注目された。つぎに,著しい骨髄抑制を示したFIV自然感染ネコの大脳,リンパ節,骨髄から,同様の方法によってFIVenv遺伝子を増幅し,その塩基配列を解析した。本例の各臓器由来の16クローンの間には、著しい遺伝的多様性が認められ,そのアミノ酸配列は最大11、1%の変異を示していた。また、これら16クローンのうち5クローンには,V3およびV5領域にin-frame stop codonが存在しており,neplication defectiveであることが明らかになり,その病原性との関連が示唆された。さらに,本例由来ウイルス(PTH-BM3株)は,TM2株が属するsubtype Bではなく,病原性が見出されるsubtype Aに属するウイルスであることが示された。
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