研究概要 |
産業有害物質のうち産業現場で極めて使用頻度が高くかつ多量、そして溶解、洗浄の用途が多い故に安易な取扱いをされ易く、しかも中枢・末梢神経系への影響が知られている有機溶剤に関して、比較的低濃度曝露においても神経系障害のみられることからその機序に迫る目的を以て、以下の神経系に係わる諸指標を以て種々の曝露条件下のラットについて検討した。 検討項目:(1)大脳における神経伝達物質の受容器結合能 (2)大脳組織学的所見 (3)大脳ChAT免疫組織化学的所見 (4)小脳および末梢神経系における神経特異性蛋白量 検討物質:tolueneおよびn-hexaneのそれぞれ単独曝露と混合曝露 曝露方法:(1)本助成により購入した精度良く濃度・流量の管理可能な灌流式曝露チャンバー内にて吸入曝露 (2)tolueneに関しては1000,500,200,100ppm.n-hexaneに関しては200,100ppm.tolueneおよびn-hexane混合曝露ではtoluene 200ppmおよびn-hexane 100ppm.toluene 1000ppmでは30min.単回曝露および26週(153回)の慢性曝露、500ppmでは20min./day 10日の亜急性曝露を、100ppm 60min.×2/day 9週(50回)、200ppm 60min.×2/day 18週(107回)の亜慢性曝露の諸条件、n-hexaneは200ppm 60min.×2/day 29週(173回)の亜慢性曝露、toluene,n-hexane混合ではtoluene 200ppm,n-hexane 100ppmにて60min.×2/day 30週(180回)に引きつづき240min./day 7週(40回)の慢性曝露とした。 結果および考察:1)大脳神経伝達化学物質受容器結合能への影響:toluene高濃度短時間1回曝露ではAdrα_1への結合能の低下、Adrα_2,Cho.Mus.各receptorへの結合能亢進、低濃度亜慢性ではAdrα_1 receptorで低下、GABA_A receptorで低下傾向、高濃度慢性でAdrα_1で低下、n-hexane低濃度慢性でAdrα_1で低下。以上の他serotonin 5HT_2,Dopamine,各receptorへの影響は見られなかった。2)大脳組織学的所見:高濃度曝露群で神経細胞および軸索に萎縮、低濃度亜慢性群では著変は観察されなかった。3)大脳ChATに関する免疫組織学的観察において慢性投与による影響は認められなかった。4)神経特異性enolase測定ではtoluene高濃度において小脳に増加、低濃度慢性曝露で末梢神経(坐骨神経)で増加が観察された。 以上の結果から高濃度急性曝露影響は、中枢神経系には主としてAdrenergic,cholinergic receptorに、低濃度慢性曝露影響は末梢神経への影響が示唆された。今回の助成金額では多数例曝露可能な既製のinhalation chanberが購入できず、多項目観察に対し十分な例数が当てられなかった。今後、さらに各観察項目について例数を重ね、他のmarkerについても検討する必要がある。
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