【目的】短時間虚血-再潅流刺激(preconditioning)は、ひき続く長時間の虚血による心筋障害を軽減する。その機序に虚血心筋から放出されるアデノシンの役割が注目されている。そのA1受容体は百日咳毒素感受性G蛋白を介し1)アデニレートシクラーゼ活性(ACA)を抑制、2)ATP感受性カリウムチャネルを開口、3)Na/Ca交換機構を活性化(Na流入Ca除去)するが、どの作用がpreconditioningの心筋保護作用に重要であるかは不明である。申請者らは、家兎を用いた実験的検討から、20分までの虚血によるアデニレートシクラーゼ活性の低下がpreconditioningにより改善すること、したがってACAの抑制はpreconditioningの主要な機序でないことを証明した。本研究ではpreconditioning時のアデノシンA1体刺激の作用ターゲットがATP感受性カリウムチャネルの開口にあるか否かを検討したが、特にこのチャネルの開口の制御機構における百日咳毒素感受性G蛋白の役割に焦点をあてた。【方法】麻酔下に家兎を開胸、冠動脈を結索、2回の5分間虚血-5分間再潅流の有(P群)無(C群)、それぞれ、ATP感受性カリウムチャネル阻害薬glibencramide前投与(P+G群及びC+G群)による20分間虚血モデルを作成、虚血部と非虚血部で心筋膜分画を調製、イソプロテレノール、NaF、フォルスコリン刺激によるACAを測定した。さらに百日咳毒素で48時間処理した家兎を作成、同様の検討を行なった。【結果】C群では20分虚血によりACAが58-68%低下、P群ではその低下が改善された。C+G群ではACAの低下に変化はみられず、P+G群でもACAの低下の改善に変化はみられなかった。百日咳毒素処理家兎では、P群、P+G群ともpreconditioningによるACAの低下の改善が消失した。以上より、preconditioningの心筋保護効果は百日咳毒素感受性G蛋白を介するものであるが、その作用ターゲットはATP感受性カリウムチャネルの開口にあるのではないことが解った。
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