研究概要 |
今年度は、末梢血由来のCD34陽性細胞をc-kit抗原の発現レベルによりc-kit^<high/low/->に3分割し、各々の分画を標的細胞としたいくつかの検討を試みた。(1)CD34^+c-kit^<high or low>分割を標的細胞として、SCF,IL-3,GM- CSF,IL-9のBPA活性について検討したところ、IL-3が最も強力なBPA活性を示した。SCFはCD34^+c-kit^<high>細胞に対してIL-3に次ぐBPA活性を示した。しかし,CD34^+c-kit^<low>細胞を標的細胞とするとIL-9のBPA活性だけが消失することから、IL-9がSCF,IL-3^・,GM-CSFに比べてより分化して幹細胞を支持することが示唆された。(2)CD34^+c-kit^<low or ->細胞を標的細胞として、SCFの好中球造血における作用を検討したところ、G-CSFの存在下でSCFがIL-3,GM-CSFと同数の好中球(G)コロニー形成を支持することが分かった。さらに、SCFとIL-4の間に顕著な協調作用の存在することが明らかとなつた。(3)IL-4の赤血球造血における作用について検討したところ、CD34^+c-kit^<low>細胞に対してBPA活性を示すことが明らかとなった。さらに、混合コロニー形成に対して、SCFとIL-4の間に顕著な協調作用のあることも明らかにした。(4)SCFと同様にレセプター型チロシンキナーゼであるflt3/flk2のリガンド(FL)の造血作用についても検討したところ、G-CSF存在下でGコロニー形成を促進し、IL-3/GM-CSF+Epo存在下の混合コロニー形成において協調作用を示すことが知られた。(5)以上より、IL-4がc-kit/SCF系およびflt3/FL系のシグナル伝達に影響することが示唆された。(6)アンチセンスDNA分子に関しては、ヌクレアーゼに耐性なホスホロチオエ-ト型アンチセンスDNAの大量合成、精製法を確立した。(7)TGFβに対するアンチセンスDNA分子の効果についても検討を加えた。その結果、CD34^+c-kit^<low>細胞分画などでコロニー形成率の上昇が認められ、未分化幹細胞のGo期よりの離脱が示唆されている。現在、Rb,p53などの癌抑制遺伝子に対するアンチセンスDNA分子の効果についても検討を加えつつある。 以上の検討により、SCF,FLなどのレセプター型チロシンキナーゼと種々のサイトカイン間の協調作用が明らかになってきた。今後、細胞生物学的に明らかになったこれらのサイトカインネットワークの分子機構について,アンチセンスDNA分子やdifferential display PCR法を用いる分化段階特異的遺伝子の同定などにより究明していく予定である。
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