研究概要 |
女性生殖器の構成細胞の増殖と分化の過程には性ステロイドが深く関与し、また子宮内膜癌を始めとする種々の女性性器悪性腫瘍の発生にも関与するが、これらのプロセスにおけるストレス蛋白(heat shock protein,HSP)の役割についてはほとんど知られていない。そこで、本研究はこれらにおけるHSP70,HSP90の発現の有無やその意義を明らかにすることを目的とした。今回の研究において明らかになった点は以下のとおりである。 (1)正常女性生殖器においては、HSP70(inducible form),HSP90が通常の状態で発現し特異的な局在を示し、またその発現レベルは月経周期により変化している。その月経周期による変動も組織により異なる。(2)正常女性生殖器におけるHSP70,HSP90の発現と局在をそれぞれの性ステロイド受容体発現と比較した結果、HSP70はそれらの細胞における性ステロイド効果発現に深く関与している可能性が示唆された。(3)子宮内膜癌においてはその発生の初期の時点で、正常ではHSP70発現が認められるような内分泌環境においてもその発現が認められず、子宮内膜上皮の癌化過程にHSP70発現調節機序の異常が関与することが示唆された。(3)卵巣癌などでは多くにHSP70,HSP90の強発現が認められ、これらはp53蛋白過剰発現と正相関し、性ステロイド受容体発現と逆相関していた。 以上より、女性生殖器の生理・病理にHSPが重要な役割を演じていることが強く示唆された。しかし、女性生殖器においてHSPが真に性ステロイド受容体に関連してその働きを営んでいるか否かの直接証明には、さらに詳細な生化学的研究を要する。
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