研究概要 |
1.ヒト鼻汁ムチンの精製・抽出 慢性副鼻腔炎患者から採取した鼻汁に5mMEDTA添加リン酸緩衝食塩水を加えて超音波処理後、遠心し、この上清を可溶性画分として集めた。この可溶性画分をゲル濾過し、最も分子量の大きい画分、すなわち可溶性ムチンの溶出している画分を再度ゲル濾過して精製した。これを糖組成の解析、アミノ酸分析、蛋白質量の測定を行い、精製可溶性ムチンを得た。この方法で慢性副鼻腔炎鼻汁15mlから総糖蛋白質量10.17mgの精製したヒト鼻汁ムチンを得た。 2.ムチンの細菌に対する付着性の検討 管壁にムチンを被覆した試験管の管壁ムチン層への細菌の付着性を検討した。対照としては内腔をシリコン処理した試験管を使用した。S.aureus,E.coli,K.pneumoniaeではシリコン被覆群と比較してムチン被覆群の付着菌数が有意に多く、これら細菌に対するムチンの付着性が認められた。 3.ムチンの細菌に対する障壁作用の検討 ムチンを含有したソフト寒天とムチンを含有しないソフト寒天を各々培地上に重層し、各種細菌がこれらのソフト寒天を通過する状態や、ソフト寒天上のコロニー形成状態を観察してムチンの障壁作用を検討した。コントロール群(培地のみの群)と比較してS.aureus,E.coli,K.pneumoniae,P.aeruginosaに対してムチン層の障壁作用が認められた。 4.ムチンの抗菌作用の検討 ムチンを添加した培地と添加しない培地でS.aureus,E.coli,K,pneumoniae,P.aeruginosaを加えて35℃で保温し、各々経時的に菌数を算定して比較検討した。これらの各菌に対してムチンの抗菌作用が認められたが、なかでもS.aureusとK.pneumoniaeに著しく抗菌作用がみられた。S.aureusについて各過程を走査電顕で観察した。ムチンが厚く覆っている菌ではそうでないものに比較して菌の増殖に乏しかった。ムチンが覆っている菌でも分裂増殖している所見が認められた。これらのことよりムチンの抗菌作用は殺菌作用ではなく、静菌作用であると考えられた。 以上の検討より、ヒト鼻汁ムチンは鼻粘膜防御機構において重要な役割を果たしていることが認められた。
|