研究概要 |
抗原に対する抗体の親和性は体内の抗原の量に応じ時間とともに増大する。抗体の親和性の成熟と呼ばれるこの現象の分子機構をX線結晶解析による三次元構造知見に基づいて解明するため,親和性成熟の過程の抗体について解析に適したFabフラグメント結晶を得ることを目的とした。 免疫応答の初期に産生されるN1G9,中期の3B44,および後期の3B62のマウスIgG_1抗ニトロフェノール(NP)抗体の培養法とFabの調製法を改良し,試料の大量精製法をまづ確立した。ついで,X線解析に適した結晶を得るための結晶化条件を最適化した。得られた3種のFab結晶はいずれも微小であったが,十分にX線解析が可能なことが判明した。このうちN1G9と3B44についてはFab結晶とNPとの複合体結晶のX線回折強度データを収集し,X線解析に着手した。3B62については,高分解能の回折斑点を与える結晶には双晶成分の回折斑点が認められた。そこで,結晶化と強度データの収集の方法をさらに改良することとしている。 目的とした結晶化とX線結晶解析の見通しの確立の成果の学会発表を既に行い,現在投稿論文を準備中である。しかも,N1G9についてはFab自体と複合体の双方の結晶の解析を既に進め,構造の概略のみならずNPの結合部位の大まかな環境も知ることができた。3B44についても3A分解能で結晶中の分子配置を決定している。したがって,これらFab構造の詳細なX線解析が可能となり,親和性成熟の分子機構の研究は今後大いに進展するものと期待される。
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