研究概要 |
星間分子雲には,ケイ酸塩鉱物・有機物・氷からなる微粒子が存在する.これらの微粒子が蒸発,紫外線・宇宙線による変成作用をへて,始原天体である彗星や炭素質隕石が作られる.この過程で,紫外線・宇宙線照射による氷から有機物への進化等の複雑な変化が起こっているが,物質進化という立場からの研究は皆無であった.そこで,本研究では"物質進化シミュレーター",すなわち,氷・有機物の凝縮装置,イオン・紫外線照射部,および各種分析装置からなる複合装置を試作,開発することにした.本研究で得られた成果を要約すると以下の通りである. (1)実験装置の開発 超高真空装置内で金属基板を10Kまで冷却し,氷の薄膜の凝縮が可能な実験装置および氷や有機物に照射するための紫外線源,イオン源の開発に成功した.特に,紫外線源はこれまでになかった単波長で(172,120nm)強度もこれまでより一桁強い,誘電体バリア放電エキシマ型である. (2)物質進化についての実験 a)氷に紫外線を照射し有機物の生成を調べる実験を行い,有機物の生成量は氷の組成に依存せず,紫外線照射量に比例する事が明らかになった. b)生成した有機物にさらに紫外線・イオンを照射する実験を行い,O,N,Hが失われ炭素質に変化すること,また,炭素のpolimcrizationによりpolyaromaticなクラスターが形成される事を見いだした. c)生物有機化合物の光学活性の起源をシミュレートする実験を行い,有機質星間塵中のラセミ体が中性子星からの円偏光によって不斉分解されることにより,生物有機化合物が片手構造を持った事が結論された.
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