研究概要 |
1.走査透過電子顕微鏡(STEM)用薄膜レンズの設計・製作:加速電圧200kVのSTEMに対して最適な薄膜レンズを設計するため,3次と5次の球面収差係数を計算した.その結果,電極の孔径を0.4mmとすれば,実用的な薄膜レンズ電圧で補正を達成できることが分かった.この計算結果に基づき,薄膜レンズを設計・製作した. 2.信号電子検出系の構築と最適化:備品として購入した明視野・暗視野検出器を用いた信号電子検出系の最適化を行った.その結果,試料から26mradまでの角度で出た電子をすべて検出したとき,薄膜レンズの薄膜で6.3mrad以上の角度で散乱された電子を検出絞りで除いて,SN比の高い像を得ることができた. 3.薄膜レンズの球面収差補正特性の測定と評価:作製した薄膜レンズをSTEMに組み込み,動作させて,陰影像を用いて球面収差係数を測定した.その結果,球面収差係数は薄膜レンズ電圧の増加に伴って減少し,350V付近で負に転じた.測定した球面収差係数は,5次までの球面収差を考慮したとき計算値とよく一致し,作製した薄膜レンズが期待通りの球面収差補正特性を持つことが分った. 4.薄膜レズを用いたSTEM像の観察:加速電圧200kVにおいて,薄膜レンズを動作させながら金微粒子のSTEM観察を行って,薄膜レンズを用いない通常の像と比較した.その結果,薄膜レンズ球面収差を補正した方が小さな間隔の粒子まで分離して観察でき,薄膜レンズを用いた分解能の向上が初めて実証できた. 電子プローブ電流密度の計算による検討:補正実験の結果を評価するために,プローブの電流密度分布を計算した.その結果,薄膜レンズ電圧350Vで収差のない理想的な分布にほぼ一致した.この最適な薄膜レンズ電圧は,実験で最も高い分解能が得られたときの電圧と一致し,ほぼ完全な補正が実現できたことも分った.
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