研究概要 |
本研究は,大規模交通基盤整備プロジェクトの影響を,地域別に把握できる方法論の開発を意図しており,中国を対象としたモデル開発を段階的に進めて来た。 (1)従来のモデル(第1モデルと呼ぶ)の複雑な計算プロセスを整理し,プログラムを一貫性を持つものに改訂した。また他のデータの公表状況に鑑み,計算の基準年を1985年から87年に変更し,唯一の公表された地域表である北京表や,地域間貨物輸送量を用いて検証を試みた。第1モデルの概要と実証分析結果は第4章に報告されている。 (2)モデルの意図するところは,価格と量の同時均衡であり,従来のモデルでも,部分的に市場均衡条件を考慮していた。問題意識としてはCGEモデルに近いため,最初からCGE的な考え方に基づいて,モデルを全面的に改訂した。この第2モデルを用いて,87年の基準均衡を計算する過程で,明らかになった問題点を整理し,財調達先の選択を競争型に変更し,地域間価格均衡の条件式を導入する等の再改訂を行った。 (3)第2章では,モデルの基本的な枠組みを理解するために,家計と一般企業・運輸企業からなる閉じた経済を考え,各主体の行動を記述した後,経済全体が満たすべき均衡条件を,地域間産業連関分析の枠組みに則して整理している。第3章では,中国経済統計の利用を前提に,政府・海外部門や貯蓄・投資変数を導入してより現実的な方向にモデルを拡張すると共に,予想される代替的な適用条件への対応を検討している。 (4)第5章では,本モデルの枠組みを阪神・淡路大震災の経済被害推計に応用した結果を報告する。この場合,交通網遮断の価格体系への影響は小さいと考えられるので,価格を固定し,量の範囲のみで均衡を考慮する一方,交通網被害が物資調達に与える影響を詳細に分析するため,複数の交通モードを導入する等のモデル変更を行っている。
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