研究概要 |
III-V化合物半導体の主要成分の一つである砒素は,非常に複雑な蒸気種を生成することから,砒素系合金の熱力学的性質を測定する場合には,高温質量分析計法が最適である.しかし,砒素の蒸気圧が高いために希薄組成範囲での測定のみが可能であり,この場合には一般に砒素の活量を測定できない.そこで活量既知の参照試料と活量未知の試料の蒸気圧を比較するダブル・クヌーセンセル法を採用することが望ましい.そこで本研究では市販の質量分析計に小型電気炉を取付けダブル・クヌーセンセル-高温質量分析計を試作した.本装置の性能を検査するためにいくつかの実験を行い,次のような結果を得た. 1) 質量分析計内の残留ガス,銀,銅,砒素のイオン化電圧を測定しイオン源の作動を確認した. 2) 銀,銅の蒸気熱を測定し報告値と良い一致を得,本装置で最も重要な因子のひとつである両セルの温度は均一であり,イオン化室とクヌーセンセルの関係が測定に適していることを確認した. 3) Ag-Ga系の活量をシングル・クヌーセンセル法で測定し,精度良い結果を得ることができた. 4) シングル・クヌーセンセル法とmonomer-dimmer法を組み合わせ,本装置を用いてGa-As系の一部の組成範囲での測定にもかかわらず砒素の活量が測定可能であることを確認した. 5) ダブル・クヌーセンセル法を用い,Cu-As系の実験を行い砒素希薄範囲での砒素の活量を正確に測定することが可能であることを示した. 以上の結果より,試作した本装置はダブル・クヌーセンセル法としてだけでなく,いく種類かの実験方式を組み合わせて応用することができることが明らかであり,装置の試作に成功した.現在この装置を用いてこれまで測定が困難であった希薄組成範囲の熱力学的性質に関する実験を実施中であり,さらに水素吸蔵合金など新素材に関する熱力学の実験を行う予定である.
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