研究概要 |
ジフェニルメタン骨格を有するシクロファンを,水溶液中,さらには膜界面において人工酵素モデルとして応用することを目指した研究を行い,以下の知見を得た。 1.ジフェニルメタン骨格を持つシクロファンの架橋部に触媒性官能基を導入したシクロファンを合成した。それらの触媒性シクロファンによる水溶液中(pH8.65)でのエステル分解反応速度を調べたところ,イミダゾール基を持つシクロファンにより3.8倍の加速効果が観られたが,不活性なゲストを同時に添加した場合及びシクロファン環を持たない対照化合物を添加した場合に,より大きな加速効果が観られた。これらに結果は,イミダゾール基を持つシクロファンによるエステル分解反応の加速が,シクロファン内孔への取り込みに基づくものではないことを示しており,触媒基が取り込まれた基質の反応点と近接するようなシクロファンの設計の必要性が明らかとなった。 2.触媒性官能基の導入を念頭に置いた新しいタイプのキラル疎水性内孔の精密設計の試みとして,二つのOH基を持つ新規なC_2対称のアニオン性光学活性シクロファンを合成し,水溶液中(pD12.8)におけるゲスト取り込みを^1H-NMRにより調べたところ,カチオン性芳香族ゲストに対してK_S〜10^3M^<-1>程度の強い取り込み能を示すことが明らかとなった。 3.シクロファンの定まった構造の内孔への取り込みに基づく有機ゲストの非極性部分の構造識別を,膜界面において実現するための基礎検討として,シクロファンを含むポリ塩化ビニル(PVC)担持液膜において,ゲストにより誘起される膜電位変化を検討した。数種類のタイプのシクロファンを検討した結果,ベンゼン環の一方に荷電性親水基,反対側にアルキル長鎖を導入した両親媒性シクロファンが最も大きな膜電位応答を示し,界面レセプター化合物の分子設計にとって重要な基礎知見が得られた。
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