研究概要 |
無細胞タンパク質合成系は,タンパク質合成を盛んに行っている細胞の細胞抽出液(サイトゾル画分)を用いて、mRNA,アミノ酸,エネルギー源としてのATPなどを加えることによりin vitroでタンパク質合成を行うシステムである。無細胞タンパク質合成系には,生細胞を用いたタンパク質合成に比べて,翻訳産物の毒性の問題を回避できる等の利点があり,部位特異的に非天然アミノ酸をタンパク質に組み込む等,タンパク質工学への新たな応用が期待されている。本研究では,無細胞タンパク質合成系をタンパク質生産のための新しい技術として確立するために,(1)翻訳の効率を現在の10-100倍に高める(高効率化),(2)分子シャペロンを操作することにより,機能をもったタンパク質の生産効率を上げる(高機能化)ことを目指した。 (1)の高効率化に関しては,大腸菌のS30エクストラクトの反応系を用いて,反応液1mlあたり250μg合成の合成効率を達成した。これは,従来の無細胞タンパク質合成系の合成効率の100倍以上であり,細胞内でのタンパク質の翻訳効率に匹敵する効率である。また(2)の高機能化に関しては,酵母エクストラクトの反応系において,分子シャペロンのhsp70(Ssaタンパク質)とYdjlpを選択的に,各々85%,100%除去したところ,翻訳効率が低下したが,合成タンパク質の性質を調べることは可能であった。今後,高機能の無細胞タンパク質合成系を検討するためのモデル系が確立できたものと考えられる。
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