研究概要 |
現代人は来世のリアリティを喪失してしまったかに思える。科学主義が最上のもとされ,合理的思考に馴らされた近代以降の社会では,科学的にその存在を立証できない来世など,迷信にすぎないものとして一笑に伏されるが普通かもしれない。 しかし,1980年代に入って,盲目的な科学主義の弊害と限界が至る所で指摘されるとともに,とくに若い人たちの間に一種の霊界志向が芽生えだした。それが“まじめ"か“遊び"かは差し当たり問うまい。神秘への回帰があるという事実が重要である。そして,この研究で取り上げた問題は,現代人の霊界志向を構成する来世観が,浄土思想が果たしたと同じように,死の不安や怖れを和らげる機能を有しているかどうか,ということである。 研究成果1の「大学生とその両親の死の不安と死観」では,キリスト教文化圏でなされた諸研究を批判的に概観しつつ,大学生とその両親を対象として,死に対する不安と死に対する態度(死観)について検討を加えた。 研究成果2の「来世観と死観の構造」では,来世と死に対する態度の構造把握が,日本人の心性ということに配慮しつつ試みられた。 研究成果3「死の不安が来世信仰に及ぼす効果」では,研究成果1と研究成果2にもとづいて実験が行なわれた。 以上の研究によって,来世に対する信仰は死の不安と密接に関連しているのであるが,宗教的信仰をもっている人においては,来世信仰は死の不安を低減するけれども,宗教的信仰をもたない人にあっては,来世信仰が死の不安を増幅することが明らかにされた。
|