研究概要 |
本研究は,カント哲学そのものと,カント哲学をめぐる内的・外的コンテクストの研究に寄与することを意図するものであった。本研究は,また,近年ますます細分化をとげつつあるカント研究を,いま一度総合的に考え直そうとするものであった。今年度はとくに,研究成果のとりまとめに努めた。カント哲学の全体像に関しては,主として宇都宮の分担研究によって,カントにおける生とその思想との深い関連があらためて確認された。カント哲学の内的構造に関して,主として新田の分担研究によって新たに獲得された知見としては,カント実践哲学は,その理論哲学がそうであったように,いわばヒューム問題への回答のこころみに,その核心の一つが認められることの確認があげられる。カント哲学の外的コンテクストに関わることがらについては,主に熊野が分担して研究を進めたが,その結果,カントにおける主体の自己関係の問題が,フィヒテはもとより,ヘーゲルにいたるまでのドイツ観念論の思想に大きな影響を与えつづけたこと,ならびに,現代の現象学における反省理論の現在的展開もまた,カントが提起し,フィヒテ・ヘーゲルがそれぞれに答えようとした。同じ問題への新たな回答のこころみとして解釈されうること,が確認された。こうして,カント哲学のコンテクストをめぐる総合的研究という,当初の課題は,2年にわたる共同研究を通じて,ほぼ達成されたといいうる。なお,交付申請書に記したとおり,本研究の成果をその一部として包摂する予定の,カントにかかわる共同研究書は,現在,編集作業が進められており,研究代表者ならびに研究分担者の3名が,本研究の研究報告書に掲載した各自の報告をもとに,それぞれ分担して執筆している。
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