研究概要 |
一九三〇年代から四〇年代初めにおける中国では,「抗日、救国」という非常事態のなかで,女性は,伝統的慣習と政治運動に大きく左右された。政治勢力の支配が国民党と共産党に分かれ,それぞれ都市部と農山村部に影響力をもった。都市部のマスコミを中心とした国民党の復古運動は,それに反対する知識人とのイデオロギー論争となり,女性にたいしては「婦女回家(女は家に帰れ)」思潮をめぐって,大きな論争が長く続いた。 今回研究対象とした『申報』副刊の『婦女園地』(1934年2月〜35年10月)は,上海で刊行されたが,当時の女性を社会から家庭に引き戻そうとする復古思潮のなかで,理論水準の高いフェミニズム論を展開した。その全内容を検討し,目次を整理・収録し,かつ女性向け刊行物の出版年表を作成した。それらの過程を通して,その資料的価値と思想史的意義をフェミニズム的視点で構築した。 論稿のなかでは主に,従来の中国女性史では言及されていない刑法239条の男女不平等な法律の修正請願運動に関して,また法律と現実社会の慣習との矛盾に関して,女性の立場からどのように対処し,多くの女性に理論的裏付けをもつ運動に発展させようとしたのか,他の論点とともに考察した。その結果,これまで中国で定説的に言われてきたように,法律の男女平等を要求したのは,一部のブルジョアジーの女性だけであったとするのは事実に即していないことが明らかになった。今後は,今回の論考を引き継いで「婦女回家」論争の後半から出てきた新良妻賢母主義を巡る論争を雑誌『婦女生活』『婦女共鳴』を中心に,また国民党の文化政策や新生活運動と関連づけて研究する。
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