研究概要 |
当初の一連の研究計画に基づき,現在,第1にメディアのモダリティの分析,第2にメディアを媒体とした仮想ネットワーク社会の設計,まで進めている。結果は以下の通りである。 (A)第1段階として,文字情報と音声情報の典型として手紙と電話を取り上げ,各々のmediaの特性と違いを感情表出及び伝達という観点から分析した。具体的には,怒り・悲しみ・憂鬱・喜び・軽蔑の5感情に関して,(a)手紙と電話で感情表出を行わせ(表出者6名),(b)表出された感情の評価(被験者431名)(c)media変換(手紙の音声化と電話の話内容の文字化)した後,再び感情評価(被験者382名)の3実験を行った。その結果,(1)手紙では,心中に起こった激しい感情は一旦整理され,感情表出は抑制された構成的な表現形式をとる。(2)電話では,表出者と受け手が非言語的特性に彩られた同じ空間を共有することで,全体的にまとまりのない感情が即時的に行き交うようであった。(3)media変換は,電話と手紙の特性を相互に近づける働きをした。文字と音声の感情表出におけるこうした特性をふまえて,第2段階の「感情交流が行われやすいネットワーク社会」のシステム設計及び感情交流と分析に着手した。 (B)電子掲示板を介して様々な立場から,あるテーマに関して行われる議論やストーリー展開を分析する計画に基づき,250人の被験者から集められた掲示板情報でどの様なメディアで,どの様な感情が交流されているかを分析している段階である。しかし,このやり方では,断片的な知識が一方通行で送られるだけで,感情の交流にはなかなか至らないことが分かった。そこで,感情の交流をはかりやすいシステムを新たに構築しはじめた。ハイパーカードのマルチメディア性はそのまま残し,ハイパーカードスタックが一つの島を形成して,幾つもの島々から成る仮想社会の空間だけを実験者が用意し,ハイパーカードを習得した被験者の匿名集団に自ら仮想社会を構築させるようにした。現在,この方法による実験が進められている。
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