研究概要 |
現時点で,本研究の結論めいたことを言おうとすれば,我が国の大学の多くが実学・教養型とも言える複合型の大学に向かっているということであろう。アメリカの大学においてもこうした流れが顕著にあるものの,あえて両国の大学教育の差を指摘するとすれば,大学教育の歴史的経験の違いを挙げることになる。「アメリカの大学制度は,大学による専門職訓練の独占的価値を認めない社会において,大学が自らを体制化するために,実用的価値の印象的価値を示さねばならなかったときに発展した。」とジョセフ・ベン=デ-ビッドが『学問の府』(1977年)の中で指摘した一文がそれを物語っている。 アメリカの大学は,当初から,大学と社会(学生と産業社会の双方)を大学教育の消費者として意識し,その提供者としての任を名実ともに実践してきた。その形態が,時代の変化によって修正されてきているに過ぎない。一方,我が国の大学は,そのようには機能してこなかったようである。我が国において,「学生および産業社会のニーズに対応する大学教育」といったフレーズは,極めて今日的なものである。その結果,大学教育のアイデンティティの再構築といった段階を踏まねばならず,この時点で既に,アメリカの大学教育とは相当に異なった状況に置かれているのである。悲しいかな,こうした歴史的経験のなさは,ともすると,志願者増を意識し過ぎた結果,本来,志願者の大学教育受講適性を見極めるはずの入学試験が,単なる志願者増加のための小細工になってしまったり,また,在学生の就職率増加を意識し過ぎた結果,教育が単なる就職試験や資格試験の受験準備講座になってしまったりする事例を生み出すことになる。 我が国の大学は,いったい何を目指すか。大学教育の大網化(自由化)を背景として,こうした動きは,まだ,始まったばかりである。本研究は,今後も継続し,我が国の大学教育の変容を追跡して行くつもりである。
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