本研究は、対象地域を西蝦夷地、時代を近世末期場所請負制下と限定し、近世文献史料にみられるアイヌ民族の生業活動とくに狩猟に関する研究をおこなうことを目的としている。本年度は、基礎資料となる文献の収集をおこない、関連部分をカード化した。 つぎに、「軽物」としてアイヌ側から運上屋へ提出された毛皮獣リストを分析することにより、狩猟された毛皮獣の数量を考えた結果、ヨイチ地域での1828年〜1857年の30年間における狩猟動物とその数量を推測することに成功した。 そこでは、同30年間において、狩猟されたヒグマは1.83頭、また、クマ送り儀礼がまったくおこなわれた形跡がないことがわかった。逆に、キツネ、カワウソなど小型の毛皮獣は、コンスタントに狩猟されていることを数量として明らかにすることができた。 この数字の分析、まとめとしての成果の発表は、とりあえず今年度におこなうものとしては、開拓記念館北の歴史文化交流事業中間報告所収論文がある。これは、北アジア、北米と、広く狩猟民研究をおこなってきた同僚の手塚薫と協議の上、共同で作成するもので、そこでは、アイヌ民族の小動物狩猟が、清朝あるいはロシアの毛皮需要のもとに、松前藩を介しておこなわれていたものであることを強調し、この時期のアイヌ民族の狩猟が少くとも清ロシア帝国という世界史的視野のもとで解釈されるべきものであることを述べた。また、同時に、今後の北東アジア狩猟民研究の一つの方向として、小型毛皮獣狩猟がクローズアップされるべきであることを提示した。
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