主婦の友社・お茶の水図書館成簣堂文庫所蔵大乗院文書は、所蔵者のご都合により、やむなく筆写を中心とした収集となったが、その分浮いた予算を、京都市山田氏所蔵文書、興福寺所蔵史料、奈良国立文化財所蔵収集史料および公文書館所蔵史料などの調査・収集に充て、所期の目的を追求することができた。紙焼きの形で収集した史料を整理し、読解・分析を行なった結果、1奈良の市街発達と平安末期の領主の土地所有が密接に関連すること、2地子が地主的土地所有に対応すること、3神仏への贈与を名目として新しい都市的課役が懸けられてくること、4「地下の堂」とよばれる各市街付属の集会所が郷民の自治の拠点となったこと、5奈有支配をもくろんだ新興の武士勢力もまたこの「地下の堂」の掌握につとめたこと、6奈良の市民全体を巻き込んで行なわれた共同体的行事(たとえば雨乞い)ばのちの「奈良惣中」成立のバネとなったこと、7春日若宮のおん祭りとあわせて東大寺転害会や祇園会が都市民の祭礼として把握されるべきこと、以上のようないくつかの新知見・見通しを得ることが出来た。かくして中世都市奈良の成立と展開に関してはある程度の枠組みを構想することができたが、その解体および近世的再編については、時間の関係から十分に行なったとはいえない。今回の成果を踏まえて、今後さらに織田・豊臣政権下の奈良の変遷について、掘り下げていくことにしたい。
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