本研究について、19世紀末の労導者家族にかんする資料と研究文献を広い範囲にわたって収集する点では予定の成果を得た。とくにベルリン自由大学が所蔵する同時代の貴重な関連文献のマイクロ・フィッシュ、Geschichte der Arbeiterklasseを入手できたことは大きな成果である。これには216点の文献が収録されている。そこには、マリー・ヴェーグナー、アーデルハイト・ポップ、リリー・ブラウンら女性運動家のものをはじめとし、労働者の日常生活や結婚、衛生問題などを検討した、こんにちでは入手の困難な文献が多数含まれている。こうした資料の本格的な分析を早急に進めることが望まれるが、本年度は病気入院と手術のために長期の休業を余儀なくされ、この作業は今後の課題として残された。いずれにせよ、マイクロ・フィッシュを直接に利用することは体力的に大きな負担を伴うから、まずプリント・アウトの作業から始めなければならない。 研究文献の収集という点では、広くドイツ近代史やオーストリア近代史をもカバーしつつ、家族史や女性史の文献収集につとめた。そうした文献を基礎に、ドイツ家族史の研究史を整理する作業をおこなった。解説論文「ドイツ語圏の歴史家族研究とウィーン・グループ」(ミッテラウアー他、若尾祐司他訳『ヨーロッパ家族社会史』名古屋大学出版会、1993年、189-215頁、所収)がこれである。他にも、ドイツ近代史研究における「特有の道(Sonderweg)」論と家族・女性史研究との関連を検討する作業をおこない、論文にまとめた。これらは、いずれも本研究のための予備的な作業である。
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