研究概要 |
本研究では「包公衆」資料の収集とその分析を目的とした。今年度の研究によって,以下のことが判明した。(1)合肥市の包公祠において未見の包拯の伝説資料を閲覧し,筆写・録画した。(2)清代における「鼓詞」(北方の語り物)の代表作は,石玉崑の長編「包公案」であるが,首都図書館影印の旧蒙古車王府蔵本の中に,その模倣作『包公案』『三〓五義』を発見し,研究成果の一部として論文に発表した。また石玉崑の長編「包公案」が先行の〓義物の影響を受けて出現したことも,多数の「鼓詞」との比較によって明らかにした。また多数の弾詞(南方の語り物)・宝巻(宗教的語り物)・唱本(歌詞のみの語り物)を首都図書館・山東大学・早稲田大学・大阪府立図書館などで採集し,民間芸能の多様性とともに,包拯の描かれ方の変容を知った。(3)新中国における「評書」(講談)には,石玉崑の長編「包公案」を継承した,天津の劉傑謙(1894-1976)の『大五義』,蘇州の金声伯の『白玉堂』があることを探訪によって知った。また揚州の余又春の「清風閘」故事『皮五剌子』は清代の浦琳の同名の講談を継承したものであるが,狡猾者が主人公となる民間説話を反映した「包公案」では異種の作品であることが明らかにし,現在でも楊明坤・李信堂らによって語り継がれており本研究では録音テープを入手して整理した。なお現地調査では,張丹峰氏の「続小五義」の上演を録画することができた。(4)新中国における地方劇「包公案」は,各省の戯曲研究所でテキストに整理されており,本研究では北京図書館・山東省図書館の蔵書を中心に膨大な数量に及ぶ各省の脚本を入手した。また台湾では包拯信仰の盛行とともに歌仔戯「包公案」が演じられ,その録画・脚本化を行った。その地方的特性,ストーリーの歴史的発展などの分析は時間をかけて行うつもりである。
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