研究概要 |
現代英語は、伝達起動力(communicative dynamism)に基づいて、文末焦点という情報構造を無標の情報構造として採用している。したがって、無標の情報構造においては、文末の内容語が焦点となり、そこに文強勢が置かれることになる(e.g.John has been to LONdon.)。しかし、一方では、JOHN's killed the bear.,John's KILLED the bear.など文末以外の語を有標の焦点としてそこに強勢を置く有標の情報構造もまた、比較的制限なしに用いられている。さらに、英語においては、このような事実を背景に、受動態、中間動詞構文、能格構文、tough構文、it...that...文、分裂文、疑似分裂文、特定要素の前置、後置、複合名詞句移動、重い名詞句移動、SVO pre.O→SVOOなどさまざまの移動現象がみられる。これらのさまざまな構文は、情報の有標性・無標性と深くかかわっているという観点から、移動現象と情報構造との関係を明らかにした。 現代英語のおける移動現象と情報構造との関係を次の4つの場合に分けて考察した。(i)形式も情報構造を歪めていない無標の場合、(ii)形式を歪めることによって情報構造を無標のままに保つ場合、(iii)情報構造を歪めることによって形式を無標のままに保つ場合、(iv)いずれも歪めてしまう場合。例えば、受動態(The bear was killed yesterday by JOHN.)、疑似分裂文(The one who killed the bear yesterday is JOHN.)は(ii)の例であり、JOHN killed the bear yesterday.は(iii)の例であり、分裂文(It's JOHN that broke the window.)は(iv)の例となる。 本研究では、統語、意味、音調のそれぞれにみられる有標性・無標性を、文における要素の移動を情報構造という観点から見直し、言い替え可能とされているさまざまな構文について、現代英語の移動現象を情報整理という観点から吟味し、具体的な統語的、意味論的、語用論的制約を提示した。加えて、それぞれの形式は、情報の整理の仕方が異なっているがゆえに、談話のレベルでの機械的な入れ替えは許さないということを示唆している。
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