研究概要 |
今年度の研究の目的は、アングロアイリッシュの詩人イェイツ(1865-1939)のアジア観を、サイードのオリエンタリズム批判の観点から検討することであった。この研究目的のために、(1)イェイツのアジア関連の文献を収集し、(2)そこに見られるアジア(日本、中国、インド、およびアラブ・イスラム圏)観を分析・解釈することを計画した。その結果、研究は,ほぼ計画通り進行し、次のような知見が得られた。 1.イェイツのアジア関連のテクストの大部分には、、イェイツが愛読したヘーゲルに由来するアジアは自然で、ヨーロッパは精神であるという世界認識が潜んでいること。 2.サイードの指摘するように、ヘーゲルが19世紀の代表的なオリエンタリストである以上、イェイツもオリエンタリストであることを断定せざるを得ないこと。 3.日本、中国、インド、およびアラブ・イスラム圏に関係したイェイツのテクストには、ほとんど例外なく、超越紳と自然への自己放棄を拒否し、あくまでも人間主体を重視する姿勢がみられること。換言すれば、アジア各地の芸術や宗教などへの彼の関心と興味は、結局、彼にとって、ヨーロッパ人としての自己の顔を映す鏡に過ぎないこと。マックス・ミューラーのいう「東洋の英知」に興味を抱きながらも、そこに潜む自己放棄の哲学には断固として一線を画していること。 4.以上のような世界観に基づき、アジア化が進行する現代のヨーロッパを嫌悪したこと。今後は、イェイツのアジア観とアングロインデアンの文学者キップリングのそれを比較検討する予定である。
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