1.景観をめぐる論争・紛争が多発する中で、国の取り組みや自治体レベルでの景観関係条例・要綱等制定の動きから伺えるように、行政の側にも景観重視の姿勢が見られる。その意味では、景観保護は開発行為に優位すべき価値として社会的承認を得つつあるともいえる。こうした方向を法理論的にも法実務的にも定着させることは緊要な課題の一つである。 2.本研究は、この課題追究に寄与すべく、景観の保護に関連する紛争の実態を解明し、景観の保護に関わる法制度のあり方を検討する。具体的には、次の諸点に取り組んだ。 (1)景観関連の論争・市民運動・紛争を全国的に把握し、紛争の原因、運動の主体、争点・論点、あるいは法・行政のこれに対する対応などを明らかにする。 (2)景観保全・形成に関する法制度のあり方について検討し、新しい権利範疇としての「景観権」概念の検討を行う。 (3)景観関連の政策・施策の歴史的変遷を解明する。自然公園法や自然環境保全法、文化財保護法、景観保全・形成の観点のある法令につき、法律構造と運用実態を分析を把握し、景観保全にとって持つ意義と限界を明らかにする。 3.本報告は、その成果の一部である。部分的にはやや古い資料に依拠しているところがあるが、前半では、近年の景観問題をめぐる動き(第1章)、景観概念(第2章)、景観関連の既存法令の展開とその持つ意義・問題点(第3章)、景観行政の展開(第4章)をフォローし、後半では、事例研究的に広島県と瀬戸内を取り上げる。広島県景観条例(1991年3月「ふるさと広島の景観の保全と創造に関する条例」)の検討(第5章)、同条例によって景観モデル地域と景観形成地域に指定されている宮島町とその対岸の大野町の事例研究を行い(第6章と第7章)、景観保全にとって最大の問題であるレゾ-ト開発と海面埋立ての実態と問題点をとくに瀬戸内に明らかにする(第8章と第9章)。
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