「互恵取引社会における契約構造」の特性を解明する手がかりとして、従来から最も日本的と言われている建設請負業界を選び、その契約構造の特質を以下の方法により解明した。 (1)日本経済の原型である「江戸期」の建設業と建設請負契約の研究を通して、日本社会の特性の基礎を考えた。 このため、幕府・藩の営繕機構(作事方・普請方)と競争入札制度の整備、入札の弊害(高額の入札保証金、役人への礼物、工事請負人の固定化と工事独占、手抜き工事)の状況、契約条件(保証金、違約金、瑕疵担保、危険負担、金銭・工事完成保証人、工事変更、物価スライド禁止など)の整備状況、身分・倹約・防火による建築制限、建築確認申請手続、大工仲間規則による得意(出入)場確保、得意先(注文者)と出入建築職人との間並びに総合請負人(大工棟梁・人夫供給業者及び商業資本)と建設職人との間の恒常的な人的関係(互恵取引社会)の形成などを解明した。 (2)明治前期の「外来契約書の摂取と建設請負の旧慣」の研究並びに明治以降における請負契約書の作成・内容整備の状況を解明し、欧米の契約書の影響と旧慣との調整の状況を検討した。 このため、居留地での工事代金不払紛争(長崎コンスル事件・フーツ事件など)の処理とその予防のための指定請負人制度と契約書作成のすすめ、明治22年の会計法制定に伴う競争入札・入札保証金制度の導入及び契約書交付の定着化、公共工事契約書や学会・協会・四会聯合作成の民間請負規程等における英・米・仏・独・スイスの契約書の参照状況(1914年の協会・請負規程では独・スイスの契約書を参照)並びに辰野金吾(1911年の学会・請負規程に関与)・鳩山秀夫(1923年及び1933年の四会聯合請負規程に関与)両博士等の関与の状況などを解明した。
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