1 平成5年度は、主として、司法統計年報その他の統計資料の調査、証拠保全手続に関する判例、実際の適用事例に関する訴訟資料の収集等の作業を実施した。平成6年度は、前年度に調査・収集した資料を基礎として、証拠保全手続に関する実務上の問題点やその理論的背景について、分析・検討した。 2 その結果、(1)証拠保全は、その制度の理念としての重要性にもかかわらず、実際の請求件数は低いままに推移してきた。証拠保全の請求をすべき対象となる証拠がそもそも少なく、また、被疑者段階における弁護活動には実際上の様々な困難があるため、現状はある意味ではやむを得ない面もあること、しかし、捜査弁護には事件の帰還を決することがあるほどの重要性があり、弁護活動の内容としても、身柄関係の防禦活動は当然として証拠の収集・保全についても、従来にも増して、証拠保全手続の活用を図っていくべきであること、及び、(2)その場合、請求を受けた裁判官においても、保全の要件としての「あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を利用することが困難な事情があるとき」については、証拠保全が被疑者・被告人の防禦権を重視した当事者主義的な制度であることを十分に視野に入れて、当該証拠を公判において使用する必要性、及び当該証拠にかかる現状保存の困難性を柔軟に解釈すべきであるとともに、被疑者らがみずからの責任と権限で事実上収集し得る証拠の範囲についてあまり高い要求を課すべきではないことが、新たな知見として得られた。 3 今後の研究の展開として、保全された証拠の具体的な利用の形態、特に検察官の不起訴処分を獲得するためや、公判における主張・立証とのかかわりなどについて、データを収集したうえで、実証的な議論を進めていく方向である。
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